ETL/ELTとは何か? データ統合の仕組みと違いをやさしく解説
近年、ビジネスにおいてデータの重要性が増しています。様々な場所に散らばっているデータを集め、分析しやすい形に整えることは、正確な意思決定や新しい価値創造のために不可欠です。このデータ統合のプロセスで中心的な役割を果たすのが、「ETL」と「ELT」と呼ばれる技術です。
ETL/ELTとは何のためにあるのか
企業が持つデータは、顧客情報、販売履歴、Webサイトのアクセスログ、SNSのデータなど、様々なシステムや形式で存在しています。これらのデータをまとめて分析しようとしても、そのままでは形式がバラバラだったり、不要な情報が含まれていたりするため、すぐに使うことはできません。
そこで必要になるのが、これらの散在するデータを一つの場所に集め、分析に適した形に加工するプロセスです。ETLやELTは、この「データを集めて整える」作業を自動化・効率化するための仕組みです。
ETL(Extract, Transform, Load)とは
ETLは、「Extract(抽出)」「Transform(変換)」「Load(格納)」という3つのステップの頭文字を取ったものです。
- Extract(抽出): まず、様々なデータソース(データベース、ファイル、アプリケーションなど)から必要なデータを取り出します。これは、まるで複数の場所にある材料を集めるようなイメージです。
- Transform(変換): 抽出したデータを、分析しやすい統一された形式に加工します。例えば、異なる形式の日付データを統一したり、不要な列を削除したり、複数のデータを結合したりといった処理を行います。これは、集めた材料を料理しやすいように切ったり混ぜたりする工程に例えられます。変換処理は、データを格納する前の専用領域や別のサーバーで行われるのが一般的です。
- Load(格納): 変換されたデータを、最終的な格納先であるデータウェアハウス(DWH)などに書き込みます。これで、データが分析可能な状態になります。
ETLは、データを格納する前にしっかりと変換を行うため、格納先のデータウェアハウスには整理されたきれいなデータが入ります。伝統的なデータ統合の方式として広く使われてきました。
ELT(Extract, Load, Transform)とは
ELTは、「Extract(抽出)」「Load(格納)」「Transform(変換)」というETLと似たステップですが、その順番が異なります。
- Extract(抽出): ETLと同様に、様々なデータソースからデータを抽出します。
- Load(格納): 抽出したデータを、変換処理を行う前に、まずデータレイクや最新のデータウェアハウスなど、生データを受け入れやすい場所に格納します。
- Transform(変換): 格納先のシステム上で、分析しやすい形にデータを変換します。この変換処理は、格納先であるデータレイクやデータウェアハウスのコンピューティング能力を利用して行われます。
ELTは、まずデータを全て格納してしまうため、後から様々な目的に合わせてデータを加工し直しやすいという特徴があります。特に、大量の生データを扱うデータレイクや、クラウドベースの高性能なデータウェアハウスが登場したことで、ELT方式が注目されるようになりました。
図1:ETLとELTの処理フローの比較(ETLはLoad前にTransform、ELTはLoad後にTransformが行われる様子を図示)
ETLとELTの主な違い
ETLとELTの最も大きな違いは、「Transform(変換)」処理を行うタイミングと場所です。
- ETL: データを格納する前に、変換処理を専用のサーバーで行います。
- ELT: データを格納した後に、格納先のシステム上で変換処理を行います。
この違いにより、それぞれに適したケースやメリット・デメリットがあります。
| 特徴 | ETL | ELT | | :---------------- | :----------------------------------------- | :--------------------------------------------- | | 変換のタイミング | 格納前 | 格納後 | | 変換を行う場所 | 専用のETLツールやサーバー | 格納先のシステム(データウェアハウス、データレイク) | | 処理能力 | ETLツールやサーバーの性能に依存 | 格納先のシステムの性能に依存 | | 初期構築の容易さ | 変換ルールを事前に厳密に定義する必要がある | 生データをそのまま格納できるため比較的容易 | | データの柔軟性 | 格納されるデータ形式は事前に決定される | 生データが残るため、後からの加工・分析が容易 | | 向いているケース | データの厳密な管理が必要な場合、古いシステム | 大容量データの高速処理、多様な分析ニーズに対応 |
ETL/ELTを導入するメリット
ETLやELTといったデータ統合の仕組みを導入することには、いくつかのメリットがあります。
- データの一元化: 散らばったデータを一つの場所に集約し、管理しやすくなります。
- データ品質の向上: データの変換・加工プロセスで、データの誤りや不整合を修正し、品質を向上させることができます。
- 分析効率の向上: 分析に適した形に整形されたデータが準備されるため、データサイエンティストやアナリストは分析作業に集中できます。
- 迅速な意思決定: 最新の、信頼できるデータに基づいた意思決定が可能になります。
- システム連携の効率化: 異なるシステム間でデータをやり取りする際の橋渡しとなります。
関連キーワード
- データウェアハウス(DWH): 分析やレポート作成を目的として、様々なデータソースから集められたデータを整理・統合して格納するデータベースのことです。
- データレイク: 構造化データ、非構造化データなど、様々な形式の生データをそのままの形で大量に保存しておくためのリポジトリです。
- データパイプライン: データをある場所から別の場所へ、必要に応じて変換や加工を行いながら自動的に流す一連の処理経路のことです。ETLやELTはデータパイプラインの一部を構成します。
- データマート: データウェアハウスの中から、特定の部門や目的に合わせて抽出・加工された小規模なデータベースのことです。
まとめ
ETLとELTは、企業が持つ多種多様なデータを収集、変換、格納することで、データ分析や活用を可能にするための重要な技術です。ETLはデータを格納前に変換する伝統的な方式、ELTはデータを格納後に変換する比較的新しい方式であり、それぞれに特徴があります。
どちらの方式を選択するかは、扱うデータの量や種類、利用するシステム、分析の目的などによって異なりますが、データに基づいたビジネス推進には欠かせない要素と言えます。これらの仕組みを理解することは、データ活用の全体像を把握する上で大変役立つでしょう。