イベントドリブンアーキテクチャ(EDA)とは? 仕組みとメリットをやさしく解説
イベントドリブンアーキテクチャ(EDA)とは
現代のシステム開発では、多くのコンポーネントが連携して一つのサービスを提供しています。これらのコンポーネント間の連携方法にはいくつか種類がありますが、その一つに「イベントドリブンアーキテクチャ(Event-Driven Architecture:EDA)」があります。
EDAは、「イベント」というできごとを起点として、システム内の各要素が非同期に連携する設計思想やパターンの総称です。従来のシステムが特定の処理要求に対して同期的に応答する(AがBを呼び出し、Bの完了を待ってから次に進む)のに対し、EDAでは、何らかの「イベント」が発生すると、それに関心を持つ要素がそれぞれ独立して反応する、という考え方に基づいています。
イベントとは何か
EDAにおける「イベント」とは、システムや外部環境で発生した「何か意味のあるできごと」のことです。これは非常に広範な概念を含みます。例えば、以下のようなものがイベントとなり得ます。
- ユーザーが商品をカートに入れた
- 注文が確定した
- センサーが一定値を超えたことを検知した
- ファイルがアップロードされた
- データベースのデータが更新された
- 外部システムから通知が届いた
これらのイベントは、単なるデータの変化ではなく、「いつ、どこで、何が起こったか」という事実を表します。
EDAの基本的な仕組み
EDAは、主に以下の3つの役割を持つ要素で構成されることが一般的です。
- イベントプロデューサー(Event Producer): イベントを発生させる側です。システム内で何かできごとが起こると、そのイベントに関する情報を生成し、後述するイベントブローカーに送ります。
- イベントブローカー(Event Broker): イベントの中継役です。プロデューサーから受け取ったイベントを、そのイベントに関心を持つコンシューマーに適切に配信します。メッセージキューやパブリッシュ/サブスクライブシステムなどがこの役割を担います。
- イベントコンシューマー(Event Consumer): イベントを受け取り、それに応じた処理を行う側です。イベントブローカーを介して特定の種類のイベントを購読しており、関連するイベントが届くと起動して処理を実行します。
(図1:イベントドリブンアーキテクチャの構成イメージ図を挿入)
この仕組みの重要な点は、イベントプロデューサーは、そのイベントが誰に、どのように処理されるかを知る必要がないということです。イベントブローカーにイベントを送るだけで役割を終えます。同様に、イベントコンシューマーは、イベントがどこから来たのかを知る必要がありません。イベントブローカーからイベントを受け取り、自身の責務に応じた処理を実行するだけです。
このような各要素間の独立性の高さを「疎結合」と呼びます。
EDAのメリット
EDAを採用することには、いくつかの大きなメリットがあります。
- スケーラビリティ(拡張性): 各コンシューマーは独立して動作するため、特定のイベントに対する処理負荷が高まった場合でも、そのコンシューマーだけを増やすことで対応できます。システム全体を停止することなく、必要な部分だけをスケールさせやすい構造です。
- レジリエンス(回復力): あるコンシューマーに障害が発生しても、他のコンシューマーやイベントプロデューサーの動作には直接影響しません。イベントブローカーがイベントを保持しておけば、コンシューマーが復旧した後に処理を再開することも可能です。システム全体としての障害に対する耐性が高まります。
- リアルタイム性: イベントが発生したら即座に関心を持つコンシューマーが反応するため、比較的リアルタイムに近い処理を実現しやすいです。即時性が求められるシステムに適しています。
- 柔軟性: 新しい機能を追加したい場合、既存のシステムに手を加えることなく、新しいイベントコンシューマーを追加するだけで対応できることが多いです。イベントを発生させる側や既存のイベント処理側を変更する必要が少なく、システムの変更や拡張が容易になります。
- 分離された開発: 各コンポーネントが独立しているため、異なるチームがそれぞれのコンポーネントを並行して開発しやすい環境が作れます。
EDAの応用例
EDAは様々な分野で活用されています。
- ECサイト: ユーザーの行動(商品の閲覧、カートへの追加、購入など)をイベントとして捉え、レコメンデーションの更新、在庫管理システムの更新、マーケティングメールの送信などを独立したコンシューマーが行います。
- IoTデータ処理: センサーからのデータ(温度、湿度、位置情報など)をイベントとして取り込み、リアルタイム監視、アラート発報、データ分析システムへの連携などを並行して行います。
- 金融取引システム: 株式や為替の価格変動、注文、約定などをイベントとして扱い、リスク管理、約定処理、ポートフォリオ更新などを迅速に実行します。
- マイクロサービス間連携: 多数の小さなサービスが連携するマイクロサービスアーキテクチャにおいて、サービス間の非同期な情報伝達手段としてEDAが広く用いられます。
まとめ
イベントドリブンアーキテクチャ(EDA)は、「イベント」を起点としたシステム設計思想です。各コンポーネントがイベントを介して非同期に連携することで、システム全体の疎結合性を高め、スケーラビリティ、回復力、柔軟性、リアルタイム性を向上させることができます。
現代の複雑で変化の激しいシステムにおいては、従来の同期的な連携だけでなく、EDAのような非同期で疎結合なアーキテクチャパターンを適切に組み合わせることが、システム全体の堅牢性や開発効率を高める上で重要になっています。
今後、皆さんがエンジニアの方々とシステムについて話す際に、「イベント」や「非同期」、「疎結合」といったキーワードが出てきたら、もしかするとそのシステムはEDAの考え方を取り入れているのかもしれません。今回の解説が、そうした技術の背景にある考え方を理解する一助となれば幸いです。