マイクロサービスとは何か? 仕組みとメリットをやさしく解説
ITシステム開発において、「マイクロサービス」という言葉を耳にすることが増えているのではないでしょうか。これは現代のシステム構築において非常に重要な考え方の一つです。ここでは、マイクロサービスとはどのようなものか、そしてなぜ多くの企業が注目しているのかについて、分かりやすく解説します。
マイクロサービスとは:小さく分割された機能の集合体
マイクロサービスとは、一つの大きなアプリケーションを、独立して開発・デプロイ・運用できる小さなサービスの集まりとして構築するアーキテクチャ(設計思想)のことです。
例えるなら、家電の「多機能一体型システム」と「個別の専門機能を持つ家電セット」のようなものです。
- 多機能一体型システム: 一つの大きな箱に、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、テレビなどが全て組み込まれているイメージ。これが従来の「モノリシックアーキテクチャ」に近い考え方です。機能を追加したり、どれか一つが壊れたりすると、全体に影響が出やすい傾向があります。
- 個別の専門機能を持つ家電セット: 冷蔵庫は冷蔵庫、電子レンジは電子レンジ、洗濯機は洗濯機として、それぞれ独立した家電があるイメージ。これらが互いに連携して、家全体の機能(生活)を成り立たせます。これが「マイクロサービスアーキテクチャ」に近い考え方です。それぞれの家電は独立しているので、新しい冷蔵庫に買い替えたり、電子レンジだけ修理に出したりしても、他の家電の利用には大きな影響が出にくいです。
つまり、マイクロサービスでは、アプリケーションが持つ様々な機能(例えば、ECサイトであれば「ユーザー管理」「商品管理」「注文処理」「決済処理」など)を、それぞれ独立した小さなサービスとして開発・運用します。これらの小さなサービスは、通常、API(Application Programming Interface)というインターフェースを通じて互いに連携し合って動作します。
なぜマイクロサービスが注目されるのか? モノリシックとの比較
従来のシステム開発では、「モノリシックアーキテクチャ」と呼ばれる、一つの大きなコードベース(プログラムのまとまり)で全ての機能を実現する方式が主流でした。開発の初期段階ではシンプルで分かりやすいというメリットがありますが、システムが大規模になり、機能が増えるにつれて以下のような課題が出てきやすいです。
- 開発・修正に時間がかかる: 少しの変更でも、全体のコードを理解し、影響範囲を確認する必要があるため、開発スピードが落ちやすい。
- 障害の影響が大きい: システムの一部に問題が発生すると、全体が停止してしまう可能性がある。
- 技術のアップデートが難しい: 特定の機能だけ新しい技術を導入することが困難。
- 拡張性の限界: システム全体をスケールアップ(性能向上)させる必要があり、コストがかさむ場合がある。
一方、マイクロサービスアーキテクチャは、これらのモノリシックアーキテクチャの課題を解決する手段として注目されています。
マイクロサービスの主なメリット
マイクロサービスを採用することには、以下のようなメリットがあります。
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開発スピードの向上: 各サービスが独立しているため、異なるチームが並行して開発を進めやすくなります。また、特定のサービスだけを修正・改善する際に、他のサービスへの影響を最小限に抑えながら迅速に対応できます。
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技術の柔軟性: 各サービスは独立して開発されるため、サービスごとに最適なプログラミング言語、データベース、フレームワークなどを選択できます。これにより、新しい技術を導入したり、既存技術をアップデートしたりすることが容易になります。
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システムの信頼性向上: たとえあるサービスに障害が発生しても、他のサービスへの影響を局所化できます(完全に影響をなくすわけではありませんが、モノリシックに比べて影響範囲を小さくしやすい)。これにより、システム全体が完全に停止するリスクを減らし、サービスの可用性を高めることができます。
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スケーラビリティ(拡張性)の向上: 特定のサービスにアクセスが集中した場合、そのサービスだけを増強(スケール)させることができます。これにより、リソースを効率的に利用し、コストを最適化しながらシステム全体の負荷に対応できます。
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チーム間の自律性: 各チームが特定のサービスを担当し、そのサービスについては開発から運用まで責任を持つようになります。これにより、チームの自律性が高まり、より迅速で柔軟な開発・運用体制を構築できます。
マイクロサービスの実現を支える技術
マイクロサービスは、その思想を実現するために様々な技術と組み合わせて利用されることが多いです。
- API: サービス間の連携には必須です。各サービスが提供する機能を他のサービスが利用するために、APIを通じて通信を行います。
- コンテナ: Dockerのようなコンテナ技術を使うことで、各サービスとその実行環境をまとめて軽量なパッケージとして扱えます。これにより、サービスのデプロイや管理が容易になります。(「コンテナとは何か?」の記事も参照してみてください)
- サーバーレス: サーバーレスのコンピューティングサービス(例:AWS Lambda, Google Cloud Functions)を利用して、特定の機能を小さなサービスとして実装することも可能です。これにより、サーバー管理の手間を省き、運用コストを削減できる場合があります。(「サーバーレスとは何か?」の記事も参照してみてください)
これらの技術は、マイクロサービスの独立性やスケーラビリティといった特性を強化するために重要な役割を果たします。
まとめ
マイクロサービスは、アプリケーションを独立した小さなサービスの集まりとして構築するアーキテクチャです。従来のモノリシックアーキテクチャと比較して、開発スピードの向上、技術の柔軟性、システムの信頼性向上、スケーラビリティの向上といった多くのメリットを持ちます。
API、コンテナ、サーバーレスといった技術と組み合わせて利用されることが一般的で、現代の複雑で変化の速いビジネス要求に応えるための重要な考え方となっています。社内エンジニアとのコミュニケーションにおいて、「マイクロサービス」という言葉が出た際には、システムが機能ごとに小さく分割されているイメージを持つと、議論の理解に役立つはずです。