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マルチクラウドとは何か? 仕組みとメリットをやさしく解説

Tags: マルチクラウド, クラウド, クラウドコンピューティング, ITインフラ, パブリッククラウド

最新テクノロジーはやさしく解説ラボです。

私たちの周りには、Amazon Web Services (AWS) や Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) といった、様々なクラウドサービスがあります。これらのサービスを一つだけ利用するのではなく、複数組み合わせて使うことを「マルチクラウド」と呼びます。

本記事では、このマルチクラウドとはどのようなものか、なぜ企業がマルチクラウドを選ぶのか、そしてそのメリットと考慮すべき点について、ITの基礎を学び始めた方に分かりやすく解説します。

マルチクラウドとは?

マルチクラウドとは、特定のベンダーに縛られず、複数のクラウドサービスプロバイダーが提供するサービスを組み合わせて利用するITインフラの形態です。

例えば、ある企業がウェブサイトをAWSで運用しつつ、データ分析にはGCPのサービスを利用し、社内コミュニケーションにはMicrosoft 365(これはSaaSですが、広義にはマルチクラウド環境の一部と見なされることもあります)を利用するといったケースがマルチクラウドにあたります。

これに対し、単一のクラウドサービスプロバイダーのサービスのみを利用する場合は「シングルクラウド」と呼ばれます。

なぜマルチクラウドが注目されるのか?

企業がマルチクラウドを選択する背景には、主に以下のような理由があります。

ベンダーロックインの回避

特定のクラウドベンダーのサービスに深く依存しすぎると、後から別のベンダーへ移行することが難しくなる場合があります。これを「ベンダーロックイン」と呼びます。マルチクラウドを採用することで、特定のベンダーへの依存度を減らし、柔軟な選択肢を保つことができます。

各サービスの最適な部分を利用

クラウドベンダーごとに得意とするサービスや機能は異なります。例えば、AIや機械学習に強みを持つベンダーもいれば、特定のデータベースサービスが優れているベンダーもいます。マルチクラウドを利用すれば、用途や目的に合わせて、それぞれのベンダーが提供する最も優れたサービスを選択し、組み合わせることが可能になります。

リスクの分散

単一のクラウドベンダーにシステム全体を依存していると、そのベンダーで大規模な障害が発生した場合、全てのシステムが影響を受けるリスクがあります。複数のクラウドにシステムを分散させることで、一つの場所での障害が全体のシステム停止に繋がるリスクを軽減できます。これは、リスクを分散させる考え方です。

コスト最適化の可能性

同じ種類のサービスであっても、ベンダーによって価格体系が異なります。マルチクラウドでは、複数のベンダーから提供されるサービスを比較検討し、コスト効率の良いサービスを選択することで、全体のITコストを最適化できる可能性があります。

マルチクラウドのメリット

これまでの説明をまとめると、マルチクラウドの主なメリットは以下のようになります。

マルチクラウドの考慮すべき点

多くのメリットがある一方で、マルチクラウドには考慮すべき課題もあります。

運用管理の複雑化

複数のクラウド環境を運用することは、シングルクラウドに比べて管理が複雑になります。それぞれのベンダーで異なる管理ツールやAPIを使う必要があるため、運用チームには幅広い知識とスキルが求められます。

セキュリティ対策

各クラウド環境で一貫したセキュリティポリシーを適用し、管理することが重要です。異なるセキュリティモデルやツールを統合的に管理する必要があり、高度なセキュリティ設計と運用が求められます。

コスト管理の難しさ

複数のベンダーからの請求を管理し、全体のコストを正確に把握することが難しくなる場合があります。意図しないコスト発生を防ぐために、継続的な監視と管理が必要です。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い

マルチクラウドと似た言葉に「ハイブリッドクラウド」があります。

ハイブリッドクラウドは、オンプレミス環境(自社で管理するサーバーやネットワーク)とパブリッククラウド(AWSやAzureなどの外部クラウド)を組み合わせて利用する形態です。

一方、マルチクラウドは、複数のパブリッククラウドを組み合わせて利用する形態です。

つまり、オンプレミスを含むかどうかが主な違いとなります。もちろん、オンプレミス、パブリッククラウドA、パブリッククラウドBをすべて組み合わせて利用する構成は、ハイブリッドクラウドかつマルチクラウドであると言えます。

まとめ

マルチクラウドは、複数のクラウドサービスの利点を組み合わせて、柔軟性、耐障害性、コスト効率を高めるための戦略です。ベンダーロックインを避け、ビジネスニーズに合わせて最適なサービスを選べるという大きなメリットがあります。

しかし、その運用には専門知識が必要となり、管理やセキュリティの複雑さが増すという側面もあります。

IT業界で働く上で、マルチクラウドは非常に一般的なキーワードです。この概念を理解しておくことは、様々なシステム構成や議論についていくために役立つはずです。今後、皆さんが関わるプロジェクトでも、マルチクラウドの考え方が登場することがきっとあるでしょう。

最新のIT技術は進化し続けていますが、その基礎となる考え方を一つずつ理解していくことが大切です。