ゼロトラストとは何か? 仕組みとメリットをやさしく解説
ゼロトラストとは何か? セキュリティの新しい考え方
近年、私たちの働き方やITシステムの利用方法は大きく変化しています。リモートワークの普及やクラウドサービスの利用拡大により、従来の「社内のネットワークは安全、社外は危険」という前提に基づいたセキュリティ対策だけでは対応が難しくなってきました。
そこで注目されているのが「ゼロトラスト」というセキュリティの考え方です。ゼロトラストは、情報資産にアクセスするものは、たとえ社内のネットワークに接続されているものであっても、一切信頼しないという前提に立ち、常に検証を行うアプローチです。
この考え方がなぜ重要なのか、どのような仕組みなのか、そして導入するメリットについて、分かりやすく解説します。
従来の「境界型防御」との違い
ゼロトラストを理解するために、まずは従来のセキュリティ対策の基本的な考え方である「境界型防御」と比較してみましょう。
境界型防御は、例えるなら「強固な壁に囲まれたお城」のようなイメージです。社内ネットワークという安全な領域(お城の中)と、インターネットなどの危険な領域(お城の外)を明確に分け、その境界(壁や門)をファイアウォールなどのセキュリティ装置で守ります。
この考え方では、一度お城の中に入ってしまえば、ある程度の信頼が与えられます。しかし、サイバー攻撃の手法が巧妙化し、内部不正のリスクも存在する現代においては、この「内側は安全」という前提が通用しにくくなっています。外部からの攻撃者が境界を突破したり、内部の人間が悪意を持ったり誤操作をしたりした場合、被害が拡大するリスクがあります。
一方、ゼロトラストは「誰も信頼しない」という前提です。ユーザー、デバイス、アプリケーションなど、全てのアクセス元を常に疑い、正当性を確認し続けます。お城の例で言えば、お城の中に入った後も、部屋に入るたびに厳重な身元確認と許可が必要になるようなイメージです。
(図示を示唆:境界型防御のイメージ図と、ゼロトラストのイメージ図を対比させると、より分かりやすくなります。境界型防御は中心に安全な領域があり周囲を囲むイメージ、ゼロトラストは中央に情報資産があり、全てのアクセスが個別に検証されるイメージなど。)
なぜゼロトラストが必要なのか?
ゼロトラストが必要とされる背景には、主に以下の点があります。
- 働き方の変化: リモートワークやハイブリッドワークが普及し、従業員が自宅や外出先など、安全性が保証されないネットワークから社内システムやクラウドサービスにアクセスすることが増えました。
- クラウドサービスの利用拡大: 多くの企業が業務システムをクラウドに移行しており、情報資産が従来の社内ネットワークの「境界」の外に存在するようになりました。
- サイバー攻撃の巧妙化: 標的型攻撃やランサムウェアなど、一度侵入を許すと内部で水平展開(ネットワーク内で感染を広げること)されやすい攻撃が増えています。
- 多様なデバイスの利用: 従業員が個人のスマートフォンやPCから業務システムにアクセスするなど、管理が行き届きにくい多様なデバイスが使われています。
このような状況では、もはや「社内だから安全」という境界線は曖昧になり、どこからでも不正アクセスや情報漏洩のリスクが存在すると考える必要が出てきました。
ゼロトラストを実現するための考え方
ゼロトラストは、特定の単一の製品や技術ではなく、セキュリティに対する包括的な「考え方」であり、複数の要素を組み合わせて実現されます。その主要な考え方には、以下のようなものがあります。
- 全てを信頼しない(Never Trust, Always Verify): デバイス、ユーザー、ネットワークの場所など、どんなアクセス要求もデフォルトでは信頼せず、常に検証を行います。
- 最小権限の原則: ユーザーやシステムには、業務遂行のために必要最低限の権限のみを与えます。もしアカウントが侵害されても、被害範囲を限定できます。
- 継続的な検証: アクセス許可は一度きりではなく、アクセス中も継続的に認証や認可(その操作を行ってよいかの判断)を行います。状況の変化(例えば、ユーザーが不審な行動をとった場合など)に応じて、アクセス権を取り消すこともあります。
- 多要素認証の必須化: IDとパスワードだけでなく、スマートフォンへのコード送信や生体認証など、複数の方法を組み合わせて本人確認を行います。
- デバイスの健全性の確認: アクセス元のデバイスが最新のセキュリティアップデートが適用されているか、マルウェアに感染していないかなどを常にチェックします。
- 通信の暗号化: 社内外を問わず、全ての通信を暗号化して盗聴を防ぎます。
これらの要素を組み合わせることで、たとえネットワーク内部に侵入者があっても、情報資産へのアクセスを困難にし、被害の拡大を防ぐことが期待できます。
ゼロトラスト導入のメリット
ゼロトラストの考え方を取り入れることで、企業は以下のようなメリットを得られます。
- セキュリティリスクの低減: 従来の境界型防御では防ぎきれなかった内部からの脅威や、境界を突破された後の水平展開のリスクを低減できます。情報資産へのアクセスを厳格に管理することで、情報漏洩のリスクを抑制します。
- 柔軟な働き方の実現: リモートワークや外出先からの安全なアクセスを可能にし、場所に縛られない柔軟な働き方を促進できます。
- クラウド活用の促進: クラウドサービスに移行した情報資産に対しても、統一されたセキュリティポリシーを適用しやすくなります。
- コンプライアンス対応の強化: アクセスログの厳格な管理などにより、セキュリティに関する規制やガイドラインへの対応を強化できます。
- インシデント発生時の被害最小化: 万が一、インシデントが発生した場合でも、継続的な検証や最小権限の原則により、被害範囲を限定しやすくなります。
まとめ
ゼロトラストは、現代の多様化・複雑化したIT環境とサイバー脅威に対応するための、非常に重要なセキュリティの考え方です。「一切信頼しない」という前提のもと、全てのアクセスを常に検証することで、情報資産をより安全に守ることを目指します。
ゼロトラストの実現には、様々な技術要素の組み合わせと、組織全体での意識改革、段階的な取り組みが必要です。しかし、セキュリティレベルの向上、柔軟な働き方の実現、ビジネスの変化への対応力強化といったメリットは大きく、多くの企業で導入が進んでいます。
IT業界に携わる者として、このゼロトラストの基本的な考え方を理解しておくことは、社内エンジニアとのコミュニケーションや顧客への説明においても非常に役立つでしょう。